佐瀬稔の山岳ノンフィクションである。森田勝の名前は日本のアルピニストを扱った本には必ず出てくる。「狼」と呼ばれる男は、１９８０年にグランド・ジョラスの壁からレショ氷河へと叩きつけられて帰らぬ人となった。

　森田勝の行動には、常に悲運がつきまとっていたと書かれている。まずは1969年、森田率いるアイガー北壁冬期隊の登攀中にパーティーのひとりが「白いクモ」で落下、大怪我をして救助隊が出た。森田らは登攀を完遂したが、降りてからの救助費用支払いで大きな痛手を受け、欧州アルプス転戦は打ち切られる。1973年には、第二次ＲＣＣ隊がエベレスト遠征中、南壁登攀隊の森田は捨石となり、結局登攀を断念させられる。そして有名な1975年のＫ２アタック放棄事件。第一次アタック隊から洩れた森田は、山を下りた。

　どうして、そこまで我を通してまでも自分の山を登ろうとするのだろうか。森田の運命のライバルとも言える長谷川恒男に対する競争心にしても、まるで子供の競争のようである。グランド・ジョラス北壁の冬期単独登攀競争での敗北、本当に最後までついていない。しかし、普通の人間ならば、いさぎよくではないにしても、この時点でもう諦めてしまうだろう。諦めても、世間ではよく頑張った、負けたとはいえ立派だ、との評価をするだろうし、それで十分ではないだろうか。それが、なぜ翌年、今更またグランド・ジョラスへと向かったのか。私には全く理解不能である。男のロマンか、意地か、私には森田の自分勝手な行動にしか思えない。家族の気持ちを考えたことがあったのだろうか、やはり自分は死なないという過信ではなかったのか。

　カバー裏表紙の紹介文は『”狼”と呼ばれ、２０年攀じ登ることしか考えていなかった孤高のクライマー森田勝。谷川岳、アイガー、Ｋ２と、なにかに復讐するかのように、森田は死と隣り合わせの岸壁に挑み続けた。登山界になじまず、一匹狼として名を馳せた男がたどった修羅の生涯を、迫真の筆に描く山岳ノンフィクションの名作。』と書かれている。

　佐瀬稔は臨場感溢れる筆致でこのアルピニストの一生を描き出している。読んでいて、森田に感情移入することはできなかったが、極端なまでに純粋に山にのめりこむ姿勢が描き尽くされているのには圧倒されてしまった。　

『狼は帰らず　アルピニスト・森田勝の生と死』
佐瀬　稔著
中央公論社（中公文庫） 
2001.3.20読了

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狼は帰らず　アルピニスト・森田勝の生と死

写真撮影：モリアーチー

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最終更新日04/08/25
初掲載告知日01/03/25